“不動産投資”と聞くと「家賃収入で利益を得る」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、毎月の収支がマイナスになることを承知の上で投資を行うケースも少なくありません。
この記事では、マイナス収支での不動産投資とは何か、なぜそのような投資をするのか、メリットとデメリット、そして注意点について解説します。
目次
マイナス収支の不動産投資とは?
マイナス収支の不動産投資とは、毎月の家賃収入よりもローン返済額や諸経費の方が多く、自己資金の持ち出しが発生する状態で物件を保有することを指します。
具体例
- 月額家賃収入:10万円
- ローン返済額:8万円
- 管理費・修繕積立金:2万円
- その他経費:1万円
➡月次収支:-1万円(年間-12万円)
このように、毎月1万円の持ち出しが発生しても、長期的な視点や税制上のメリットを考慮して投資を行うのが、マイナス収支での不動産投資です。
なぜマイナス収支でも不動産投資をするのか?5つの理由
1.団体信用生命保険による生命保険効果
不動産投資ローンには通常、団体信用生命保険(団信)が付帯されています。ローン契約者が死亡または高度障害状態になった場合、残債が保険で完済され、遺族には無借金の不動産が残ります。
毎月のマイナス収支を生命保険料と考えれば、掛け捨て型の生命保険に入るよりも、資産として不動産が残る分、有利という考えです。ただし、病気やケガでの保障など団体信用生命保険ではカバーしきれない部分もあるので「団信があるから大丈夫」とは言い切れない点に注意が必要です。
生命保険との比較例
- 掛け捨て生命保険:月2万円 → 30年で720万円が消える
- マイナス収支投資:月1万円 → 30年で360万円の持ち出しだが、不動産資産が残る
2.将来的なキャピタルゲイン(売却益)
現在の家賃収入ではマイナス収支でも、ローンの残債が減れば売却時に利益を得られます。また、物件価格が上昇していればさらに大きな売却益を期待できます。
また、ローン完済後は収支が大幅に改善されるため、長期保有による資産形成を目指すケースもあります。
3.所得税・住民税の節税効果
不動産所得が赤字になった場合、給与所得などと損益通算することで、所得税と住民税を軽減できます。
節税のしくみ
不動産投資では以下の費用を経費として計上できます。
- 減価償却費(実際の現金支出を伴わない経費)
- ローン利息
- 管理費、修繕費
- 固定資産税
- 火災保険料
特に減価償却費は実際にお金が出ていかない経費のため、帳簿上の赤字を作りやすく、高所得者ほど節税効果が大きくなります。
節税効果の計算例
年収1,000万円のサラリーマンが不動産所得で年間100万円の赤字を出した場合
- 所得税率:33%
- 住民税率:10%
- 合計税率:43%
➡節税額:100万円×43%=43万円
年間12万円のマイナス収支でも、43万円の節税効果があれば、実質的には31万円のプラスになります。
4.インフレヘッジとしての資産保有
現金はインフレによって実質的な価値が目減りしますが、不動産は現物資産のためインフレに強いとされています。
物価上昇に伴って家賃や不動産価格も上昇する傾向があるため、長期的な資産保全の手段として活用されます。
5.老後の年金の足し
ローン完済後は、家賃収入がほぼそのまま手元に残るため、公的年金に上乗せする私的年金として活用できます。
ローン完済後のシミュレーション
- 月額家賃収入:10万円
- 管理費等:2万円
➡月次収支:+8万円(年間+96万円)
現役時代は多少の持ち出しがあっても、老後に安定収入が得られる仕組みを作ることができます。
マイナス収支投資のデメリットとリスク
メリットがある一方で、マイナス収支での投資には大きなリスクも伴います。
1.毎月の持ち出しが家計を圧迫
マイナス収支が続く限り、毎月確実に手元資金が減っていきます。収入が減少したり、予期せぬ出費が発生した場合、家計が苦しくなる可能性があります。
2.空室リスクで損失が拡大
入居者が退去して空室になった期間は、家賃収入がゼロになります。当然ながら、マイナス収支はさらに拡大します。
空室時の収支例
- 月額家賃収入:0円
- ローン返済額:8万円
- 管理費・修繕積立金:2万円
- その他経費:1万円
➡月次収支:-11万円
3.大規模修繕や突発的な修繕費用
建物の経年劣化に伴い、大規模修繕が必要になることがあります。マンションでは修繕積立金の値上げや一時金の徴収、アパート一棟や戸建てでは全額自己負担となり、まとまった資金が必要になります。
4.金利上昇リスク
変動金利でローンを組んでいる場合、金利が上昇すると返済額が増加し、マイナス収支がさらに悪化します。
5.想定通り売却できない可能性
将来的な売却益を期待していても、不動産市況の悪化や物件の老朽化により、想定価格で売却できないリスクがあります。
6.節税効果の減少
減価償却が終了すると節税効果が大幅に減少します。木造住宅は22年、RC造マンションは47年で減価償却が終わります。
マイナス収支の不動産投資に向いている人・向いていない人
向いている人
- 高所得者:税率が高く、節税効果が大きい
- 安定した収入がある会社員:毎月の持ち出しに耐えられる
- 十分な貯蓄がある人:空室や修繕に対応できる資金力
- 長期的な視点で投資できる人:短期の損失に一喜一憂しない
向いていない人
- 収入が不安定な人:持ち出しが家計を圧迫するリスク
- 貯蓄が少ない人:予期せぬ出費に対応できない
- 短期で利益を求める人:すぐには収益が出ない
- 低所得者:節税効果が小さく、メリットが薄い
マイナス収支の不動産投資を成功させるための注意点
1.綿密な収支シミュレーションを作成
購入前に必ず長期的な収支シミュレーションを作成しましょう。以下の項目を考慮することが重要です。
- 家賃下落のリスク(年1~2%程度)
- 空室率(都市部5~10%、地方10~20%)
- 金利上昇リスク(変動金利の場合)
- 大規模修繕費用
- 管理費・修繕積立金の値上げ
2.無理のない持ち出し額に設定
月々の持ち出し額は、手取り収入の5〜10%以内に抑えることが安全とされています。それ以上になると、家計への負担が大きくなりすぎます。ご自身の生活スタイルなどを考慮し、無理のない持ち出し金額にしましょう。
3.十分な現金を手元に残す
不動産投資を始める前に、最低でも以下の資金を確保しておくと安心です。
- 生活費の6ヶ月~1年分
- 空室時の持ち出し費用(6ヶ月~1年分)
- 突発的な修繕費用(50万~100万円程度)
4.立地と物件選びを慎重に
マイナス収支投資では、将来的な資産価値の維持が重要です。以下のような物件を選びましょう。
- 都心部や主要駅近くの好立地
- 賃貸需要が安定している地域
- 築浅や管理状態の良い物件
- 将来的に売却しやすい人気エリア
5.出口戦略を明確にする
いつ、どのような条件で売却するのか、または何年後にローン完済を目指すのか、明確な出口戦略を持つことが重要です。出口戦略まで相談に乗ってくれる担当者がいると安心です。
6.業者の甘い言葉に注意
「節税になります」「生命保険代わりになります」という営業トークだけで判断せず、デメリットやリスクもしっかりと把握したうえで納得のいく決断をしましょう。
よくある失敗パターン
1.節税効果だけを見て購入
節税できても、トータルでマイナスが大きければ意味がありません。節税額よりも持ち出し額が大きい場合は本末転倒です。
2.収入減で持ち出しが困難に
転職、リストラ、病気などで収入が減少し、毎月の持ち出しが困難になるケースがあります。
3.想定より早く空室が発生
入居者が想定より早く退去し、次の入居者がなかなか決まらず、大きな損失を被るケースがあります。賃貸需要の高い物件を選びましょう。
4.売却時に大幅な損失
購入時より不動産価格が下落し、ローン残債を下回る価格でしか売却できない場合もあります。
マイナス収支とプラス収支、どちらを選ぶべきか?
絶対的な正解はなく、個人の状況や目的によって異なります。
マイナス収支の不動産投資が適しているケース
- 高所得で節税メリットが大きい
- 長期的な資産形成が目的
- 将来的な資産価値上昇が期待できる好立地物件
など
プラス収支の不動産投資が適しているケース
- 早い段階での毎月の安定収入が目的
- 所得が低く節税メリットが少ない
- 早期にキャッシュフローを改善したい
など
まとめ
マイナス収支での不動産投資は、単純に「損をする投資」ではありません。節税効果、生命保険効果、将来的な資産形成など、様々なメリットがあります。マイナス収支での不動産投資は、正しく理解して実践すれば有効な資産形成手段となりますが、リスクも伴います。起こりうるリスクも理解し、自分の収入状況、資産状況、投資目的を冷静に分析し、無理のない範囲で検討しましょう。