クリニック開業時の物件選びにおいて「居抜き物件」を選択した場合、造作譲渡料がかかる場合とかからない場合があります。この記事では、居抜き物件の造作譲渡について、および事業譲渡について解説します。
居抜きとスケルトンの比較はこちらをご覧ください
「クリニック開業物件「居抜き」と「スケルトン」の違いを徹底比較!」
https://ishinofudosandesk.com/journal/business_start_up/article-33/
居抜き物件【造作譲渡料が発生する場合】
特徴
- 物件の賃借に加えて、内装や設備の所有権を取得
- 造作譲渡料の支払いが必要
- 将来の退去時に造作物の売却可能性がある
物件の賃借に加えて、内装や設備の所有権を取得
物件の賃料とは別に、既存の内装や設備の所有権を取得します。これにより、内装や設備を自由に改修したり、処分したりすることが可能になります。例えば、診察室のレイアウト変更や、待合室の内装の刷新などを、大家の許可を得ずに行うことができます。ただし、建物の構造に関わる大規模な改修には、依然として大家の許可が必要な場合があります。
造作譲渡料の支払いが必要
前テナントが投資した内装や設備の残存価値に対する対価として、造作譲渡料を支払います。この金額は、内装や設備の状態、経過年数、再取得価格などを考慮して決定されます。例えば、開業から5年程度のクリニックの場合、数百万円から数千万円程度の造作譲渡料が発生することがあります。この金額は交渉可能な場合も多いので、専門家のアドバイスを受けながら適正価格を見極めることが重要です。
将来の退去時に造作物の売却可能性がある
将来クリニックを移転や閉院する際に、自身が所有権を持つ内装や設備を次のテナントに売却できる可能性があります。これにより、初期投資の一部を回収できる可能性があります。ただし、売却できるかどうかは、その時点での内装や設備の状態、地祇のテナントのニーズ、不動産市況などに左右されます。また、売却できない場合は撤去費用が発生する可能性もあるため、長期的な視点で検討する必要があります。
居抜き物件【造作譲渡料が発生しない場合】
特徴
- 物件のみを賃借し、内装や設備は使用権のみ
- 追加の譲渡料は不要
- 退去時に原状回復義務が生じる可能性がある
- 造作譲渡料無料で内装や設備を譲り受けられる場合もある
物件のみを賃借し、内装や設備は使用権のみ
賃貸借契約に基づいて物件を借り、既存の内装や設備を使用する権利のみを得ます。これは、内装や設備の所有権はオーナーや前テナントにあることを意味します。そのため、大規模な改修や設備の入れ替えにはオーナーの許可が必要となり、自由度は比較的低くなります。ただし、軽微な変更(壁紙の張替えや家具の配置変更など)は可能な場合が多いです。
追加の譲渡料は不要
造作譲渡料が発生しないため、初期費用を抑えることができます。これは、資金に制約がある場合や、将来的に大規模な改装を予定している場合に有利です。ただし、設備や内装が古い場合、使用に耐えられない場合もあるため、事前の十分な確認が必要です。
退去時に原状回復義務が生じる可能性がある
賃貸借契約終了時に、内装や設備を契約開始時の状態に戻す必要がある場合があります。これには、壁紙の張替え、床の補修、設備の撤去などが含まれ、相当のコストがかかる可能性があります。ただし、次のテナントが居抜きで入居する場合など、状況によっては原状回復が免除されることもあります。契約時に退去時の条件を明確にしておくことが重要です。
造作譲渡料無料で内装や設備を譲り受けられる場合もある
物件の状況や市場環境によっては、造作譲渡料を支払わずに内装や設備の所有権を譲り受けられる場合があります。これは通常、以下のような状況で発生します。
- 前テナントが早期退去を希望している場合
前テナントが契約期間満了前に退去したい場合、造作物の撤去費用や原状回復費用を避けるために、無償で譲渡することがあります。 - 物件の空室期間が長期化している場合
オーナーが空室期間を短縮したい場合、新テナント誘致の条件として造作物を無償提供することがあります。 - 内装や設備が古い、または専門性が高い場合
医療機器など、転用が難しい特殊な設備がある場合、撤去費用を考慮して無償譲渡されることがあります。 - 不動産市況が賃借人有利の場合
賃貸物件の供給過多など、市況が賃借人に有利な場合、条件交渉の中で無償譲渡が認められることがあります。
初期投資を大幅に抑えられるメリットがありますが、内装や設備の状態、将来の改装の必要性、退去時の条件などを慎重に検討する必要があります。また、譲渡を受けた造作物の税務上の取り扱い(固定資産税の納税義務など)についても、専門家に確認することが重要です。
事業譲渡
特徴
- 物件、設備に加えて、営業権、患者データ、スタッフなども含めて譲渡される可能性がある
- 譲渡金には、物件、設備、のれん代などが含まれる
- 事業の継続性が高く、既存の患者基盤を引き継げる可能性がある
物件、設備に加えて、営業権、患者データ、スタッフなども含めて譲渡される可能性がある
事業譲渡では、物理的な資産だけでなく、無形資産も含めて譲り受けることができます。営業権には、クリニックの評判、地域での信頼、ブランド価値などが含まれます。患者データの譲渡には個人情報保護法の遵守が必要です。また、スタッフの雇用継続については、労働契約承継法に基づく手続きが必要となります。これらの要素を包括的に引き継ぐことで、スムーズな事業継続が可能になります。
譲渡金には物件、設備、営業権などが含まれる
事業譲渡の場合、譲渡金は物件や設備の価値だけでなく、営業権も含まれるため、一般的に高額になります。譲渡金の算定には、クリニックの過去の業績、将来の収益予測、患者数、立地条件などが考慮されます。例えば、年間売上1億円程度のクリニックの場合、譲渡金が1億円を超えることも珍しくありません。ただし、この金額は交渉可能であり、譲渡側と譲受側の状況によって大きく変動する可能性があります。
事業の継続性が高く、既存の患者基盤を引き継げる可能性がある
事業譲渡の最大のメリットは、既存の患者基盤を引き継げることです。これにより、新規開業時に直面する「患者0からのスタート」という課題を回避できます。例えば、1日の患者数が50人程度のクリニックを譲り受けた場合、開業直後から安定した収入を得られる可能性が高くなります。ただし、患者の継続的な来院を保証するものではないため、譲渡後も患者満足度の維持・向上に努める必要があります。
まとめ
以上のように、それぞれ特徴があり、メリット・デメリットが存在します。クリニック開業の際には、自身の状況、目標、税務状況などを総合的に考慮し、最適な選択をすることが重要です。また、不動産や医療経営、税務の専門家に相談し、詳細な調査と慎重な判断を行うことをおすすめします。