「表面利回りだけで物件を選んで、本当に大丈夫だろうか」
「インフレで利回りの考え方が変わったと聞くけれど、何が違うのか」
「提案された利回りの数字を、そのまま信じてよいのか」
多忙な診療の合間に不動産の提案を受け、利回りの数字だけで判断を迫られる場面は少なくありません。
「表面利回り○%なら合格」という基準は分かりやすい一方で、いまその前提が静かに変わり始めています。
そこで知っておきたいのが、「期待利回り」という第3の視点です。これは将来の家賃の動きまで織り込んで利回りを捉える考え方で、インフレ時代の判断軸として欠かせません。
この記事では、表面・実質利回りのおさらいから期待利回りの考え方、インフレ下で利回りがどう動くのか、そして提案を見抜く3つの確認ポイントまで、専門用語を避けて解説します。
まずは利回りの基礎から押さえたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
▶︎表面利回りと実質利回りの違いとは?不動産投資で失敗しないための注意点
目次
医師こそ「利回りの見方」を見直すべき2つの理由
不動産投資で失敗を避けるには、利回りの数字を読む前提から見直すことが第一歩です。医師がいま見方をアップデートすべき理由は、大きく2つあります。
・理由①:高所得ゆえに、質を問われにくい物件提案を受けやすい
・理由②:インフレで「今の数字」だけの判断は通用しなくなる
いずれも、医師という立場と時代の変化が背景にあります。順に見ていきましょう。
理由①:高所得ゆえに、質を問われにくい物件提案を受けやすい
医師は安定した高収入と社会的信用から、金融機関の融資審査で有利になりやすい職業です。その分、不動産会社から提案を受ける機会も多くなります。
これは資産形成の強みである一方、内容を十分に吟味しないまま話が進むリスクとも隣り合わせなのです。提案の質を見極める目が、これまで以上に欠かせません。
なお、これから開業を控える方は、投資用不動産のローンが開業時の融資にどう影響するかも押さえておくと安心でしょう。
クリニック開業の融資審査については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
▶︎クリニック開業の融資審査に投資用不動産のローンは影響する?
理由②:インフレで「今の数字」だけの判断は通用しなくなる
もう一つの理由が、物価の上昇です。総務省の消費者物価指数は伸びが続き、家賃の指標も上向きに転じてきました。
物価も家賃もほとんど動かなかったデフレ時代は、今の数字が将来も続くと考えてよかったといえます。
しかし前提が変わったいま、過去の数字だけを見ていると、判断を誤りかねません。将来の変化を読む視点が必要になっているのです。
まず押さえたい「表面利回り」と「実質利回り」の基本
期待利回りを理解する前に、よく使われる2つの利回りを整理しておきましょう。違いを押さえると、なぜ第3の視点が必要なのかが見えてきます。
・表面利回り:物件価格に対する年間家賃収入の割合
・実質利回り:諸経費を差し引いた手取りベースの利回り
・共通の弱点:表面・実質とも「今の数字」しか映していない
それぞれの意味と、2つに共通する弱点を確認します。
表面利回り:物件価格に対する年間家賃収入の割合
表面利回り(グロス利回り)は、物件価格に対する年間家賃収入の割合を示す指標です。「年間家賃収入÷物件価格×100」というシンプルな式で求めます。
物件どうしをざっくり比べるときに便利な一方、管理費や税金などの経費は含みません。あくまで大まかな目安として捉えるのがよいでしょう。
実質利回り:諸経費を差し引いた手取りベースの利回り
実質利回り(ネット利回り)は、家賃収入から諸経費を差し引いた「手取り」をもとに計算します。管理費・修繕費・固定資産税などを反映するぶん、表面利回りより実態に近い数字です。
同じ物件でも、実質利回りは表面利回りより低く出ます。投資判断では、こちらで手残りを必ず確認したいところです。
共通の弱点:表面・実質とも「今の数字」しか映していない
注意したいのは、表面利回りも実質利回りも、現時点の家賃と価格をもとにした数字だという点です。
家賃が動かない前提なら、それで十分でした。けれども物価や家賃が上がる局面では、将来の変化を織り込めません。
だからこそ、もう一つの視点が必要になります。それが次に解説する「期待利回り」です。
インフレ時代の新基準「期待利回り」の考え方
では、インフレ時代に加えたい「期待利回り」とは何でしょうか。これは投資家が「これくらいは欲しい」と期待する利回りで、不動産鑑定でいう還元利回り(キャップレート)に近い考え方です。
3つの利回りの違いを、まず表で整理します。
| 利回りの種類 | 何を見るか | 見ている時間軸 |
|---|---|---|
| 表面利回り | 物件価格に対する家賃収入(経費は含めない) | 今 |
| 実質利回り | 経費を差し引いた手取りの利回り | 今 |
| 期待利回り | 投資家が求める利回り(将来の家賃上昇も加味) | 未来 |
・考え方①:土台となるのは長期金利
・考え方②:リスクの分だけ利回りを上乗せする
・考え方③:将来の家賃上昇は利回りを押し下げる
式にすると「長期金利+リスクの上乗せ−将来の家賃上昇分」です。各要素を順に見ていきましょう。
考え方①:土台となるのは長期金利
期待利回りの土台になるのが、リスクをほとんど取らずに得られる利回りです。代表例が長期国債の利回りで、執筆時点ではおおむね年1%台で推移しています。
不動産投資では、これが「最低でもこれは上回りたい」という出発点になります。まずは基準となる物差しと考えてください。
考え方②:リスクの分だけ利回りを上乗せする
国債と違い、不動産には空室になる不安や、売りたいときにすぐ現金化できない不安があります。こうしたリスクを引き受ける見返りとして上乗せするのが、2つ目の要素です。
リスクが高い物件ほど、投資家はより高い利回りを求めます。立地や築年数によって、上乗せの幅は変わってくるのです。
考え方③:将来の家賃上昇は利回りを押し下げる
3つ目が、将来の家賃が上がるという期待です。式の上ではマイナスとして働く点が特徴といえます。
「このエリアの家賃は今後も伸びそうだ」と見込めるほど、求める利回りは低くても納得できます。株式で、成長が期待される銘柄が配当の低さを超えて買われるのと似た感覚でしょう。
なぜインフレ下では「低い利回りでも買い」が起こるのか
ここまでを踏まえると、一見すると割高に見える低利回りの物件が、なぜ買われるのかが見えてきます。背景には、大きく2つの理由があります。
・将来の家賃上昇分を、あらかじめ利回りに織り込んでいるため
・インフレに強い「現物資産」としての需要が高まっているため
どちらも、市場のデータからも裏付けられています。
将来の家賃上昇分を、あらかじめ利回りに織り込んでいるため
1つ目の理由は、投資家が将来の家賃上昇を、あらかじめ利回りに織り込んでいるからです。
日本不動産研究所の調査によると、東京・城南エリアのワンルームに対する期待利回りは3.6%と、過去最低の水準を更新しています(第54回・2026年4月時点)。
低い利回りでも買いたい人が多いほど、物件価値は上がります。これは将来への期待の表れなのです。
インフレに強い「現物資産」としての需要が高まっているため
2つ目は、不動産がインフレに強い現物資産とみなされるためです。
三井住友トラスト基礎研究所の分析では、インフレ期待が高まるほど、投資家が求めるリスクの上乗せ分は小さくなる傾向が示されています。
家賃や資産価値が物価とともに上がるという期待が、不動産の評価を押し上げる方向に働くのでしょう。
物件提案を受けたら確認すべき3つのポイント
期待利回りの考え方を踏まえると、提案資料の数字をうのみにしないことが大切だと分かります。多忙な医師でも押さえておきたい確認ポイントは、次の3つです。
・ポイント①:想定家賃が周辺相場とずれていないか
・ポイント②:エリアの賃貸需要は将来も続くか
・ポイント③:売却(出口)まで見据えられているか
どれも、提案者に質問するだけで確かめられます。順に説明しましょう。
ポイント①:想定家賃が周辺相場とずれていないか
まず確認したいのが、提案書の想定家賃が周辺相場と合っているかです。建築費から逆算して家賃が決められていると、実態より高めになっていることがあります。
反対に、周辺の相場が上がっているのに新築時から家賃が据え置かれ、実態より低めになっているケースもあります。どちらの可能性もあるため、直近数年の相場推移はあわせて尋ねてみてください。
なお、収支があえてマイナスになる設計なら、その狙いの妥当性も確かめたいところです。
マイナス収支でも不動産投資をする理由については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
▶︎マイナス収支でも不動産投資をする理由とは?メリット・デメリットを解説
ポイント②:エリアの賃貸需要は将来も続くか
次に、そのエリアの賃貸需要が将来も続くかを見ます。住む人の職種や収入層、人口の動きは、家賃を払い続けられる需要に直結します。
ワンルームが供給過多の地域もあるため、部屋タイプ別の需給も確認したいです。需要が細る場所では、想定どおりの家賃が続かない恐れもあります。
ポイント③:売却(出口)まで見据えられているか
最後に、購入後の売却、いわゆる出口まで見据えているかです。いつ・いくらで売れそうかという視点があると、判断がぶれにくくなります。
立地や物件タイプによって、売りやすさは大きく変わります。出口を含めた始め方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
▶︎医師が不動産投資を始める前に知っておきたい5つのこと
利回りの判断に迷ったら医師の不動産デスクへ
提案された利回りが妥当かどうかを、ご自身だけで判断するのは簡単ではありません。医師の不動産デスクは、医師・医療従事者に特化した不動産サービスです。
ご多忙な先生方に代わって提案内容を中立の立場で精査し、セカンドオピニオンとしてのご相談も承っています。
取り扱うのは投資用物件だけではありません。クリニックの開業を検討されている先生には、診療圏や動線まで踏まえた開業物件のご紹介に加え、物件選びから内装・各種手続きまでを見据えた開業サポートもご提供しています。
資産形成と開業準備の両面から、先生のライフプランに寄り添います。
「この提案の利回り、どう見ればよいか」「開業に向けてどんな物件を選べばよいか」といったご相談も歓迎です。
セカンドオピニオンとしてのご利用も大歓迎ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
これまでにご相談いただいた事例の一部をご紹介します。
医師の不動産デスクのご相談事例
30代・勤務医A様の事例
購入時は実質利回り3.1%の物件でしたが、ご所有から半年後の更新時に月額家賃が15,000円増額。
これにより実質利回りは3.7%へ上昇し、購入時を上回る収益性を実現しました。
40代・開業医B様の事例
インターネットで見つけた高利回り物件について、購入前のセカンドオピニオンとしてご相談をいただきました。
調査の結果、管理形態に課題があり、将来的な売却時の出口戦略が限られることから、売却価格の下落リスクを織り込んだ割安な価格設定であることが判明しました。表面利回りだけでは見えないリスクを事前に把握できました。
まとめ
デフレ下では「今の数字」だけで完結していた利回り判断も、インフレ局面では将来の家賃をどう読むかという視点が欠かせなくなっています。
期待利回りは、難しい金融用語ではありません。「将来の手取り収入をどう見込むか」を整理する考え方です。
表面・実質利回りにこの第3の視点を加えるだけで、複数の提案を比べるときの着眼点が変わってきます。最終的な正解はエリアや条件によりますが、自分が納得できる根拠を持って判断することが何より大切です。
利回りの見方や提案内容に迷ったときは、医師の不動産デスクへお気軽にご相談ください。