医療機関の種類や名称について疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。医療法上は「病院」と「診療所」の2種類に分類されており、それ以外の名称には法的な定義がありません。この記事では、それぞれの特徴と違いを詳しく解説します。
目次
医療法による分類
医療法では、医療機関を以下の2つに分類しています。
病院
医療法第1条の5第1項によると、病院は「20人以上の患者を入院させるための施設を有するもの」と定義されています。
診療所
医療法第1条の5第1項によると、診療所は「患者を入院させるための施設を有しないもの又は19人以下の患者を入院させるための施設を有するもの」と定義されています。
厚生労働省:医療法(昭和23年7月30日法律第205号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1
さらに、診療所は以下の2種類に分類されます。
①無床診療所
定義:入院施設を持たない診療所
特徴:外来診療のみを行う
一般的に日帰りでの治療や検査に対応
地域の一時医療を担うことが多い
例:一般的な内科クリニック、歯科医院など
②有床診療所
定義:19床以下の入院設備を持つ診療所
特徴:外来診療に加え、短期間の入院治療が可能
小規模な手術や緊急時の一時的な入院に対応できる
在宅医療の後方支援や地域の二次救急の役割を果たすこともある
例:産婦人科医院、外科系診療所など
■無床診療所と有床診療所の主な違い
1.入院機能
無床診療所は入院機能を持たないのに対し、有床診療所は短期間の入院治療が可能です。
2.提供できる医療の範囲
有床診療所は、無床診療所と比べてより幅広い医療サービスを提供できます。例えば、一定の手術や出産への対応が可能です。
3.設備と人員
有床診療所は入院患者に対応するため、より多くの医療設備と人員が必要になります。
4.地域医療における役割
無床診療所が主に日常的な外来診療を担うのに対し、有床診療所は入院を要する患者の受け入れや、在宅医療の後方支援など、より幅広い役割を果たすことができます。
5.経営面
有床診療所は無床診療所と比べ運営コストが高くなる傾向があります。しかし、入院収入や手術収入などにより、多様な収入源を持つことができます。
病院と診療所の役割の違い
病院と診療所は、医療サービスそ提供するうえでそれぞれ異なる役割を担っています。
「病院」の役割
・高度で専門的な医療の提供:最新の医療機器や技術を用いた診断・治療を行います。
・入院治療:長期的な入院や手術後の療養が必要な患者に対応します。
・救急医療:24時間体制で緊急性の高い症状に対応します。
・複数診療科の連携:様々な専門医が協力して総合的な医療を提供します。
・医療研究と教育:新しい治療法の開発や医療従事者の育成を行います。
「診療所」の役割
・ 一次医療(プライマリ・ケア)の提供:日常的な健康管理や軽度の症状に対する診療を行います。
・かかりつけ医機能:患者の健康状態を継続的に把握し、必要に応じて専門医や病院を紹介します。
・地域に密着した医療:地域住民の健康相談や予防医療を担います。
・迅速な診療:比較的待ち時間が短く、気軽に受診できます。
・在宅医療:通院が困難な患者への訪問診療を行うこともあります。
クリニック
「クリニック」という言葉は、法律上の正式な定義はありません。一般的に、現代的でスタイリッシュなイメージを持つ診療所を指す際に使用されることが多いです。多くの場合、特定の診療科目に特化した診療所がクリニックと呼ばれます。(例:美容クリニック、皮膚科クリニック、歯科クリニックなど)
医院
「医院」も、クリニックと同様に法律上の正式な定義はありません。一般的に、個人経営の小規模な診療所を指すことが多いです。多くの場合、「〇〇医院」というように、医師の名前を冠して名付けられています。
20床以上で「医院」「クリニック」は使えるのか
Q: 19床以下で「病院」は使えないことが分かりましたが、20床以上であれば「医院」や「クリニック」を使用することも問題ないのでしょうか?
A:「病院」という名称が望ましい
医療法上、20床以上の医療機関は「病院」として分類されますが、その名称に「医院」や「クリニック」を使用することは法的に禁止されていません。ただし、以下の点に注意が必要です。
1.誤解を招く可能性
「医院」や「クリニック」という名称は一般的に小規模な医療機関をイメージさせるため、20床以上の大規模な施設でこれらの名称を使用すると、患者に誤解を与える可能性があります。
2.広告規制
医療法では、医療広告に関する規制があり、虚偽や誇大な広告は禁止されています。20床以上の施設が「医院」や「クリニック」を名乗ることで、施設の規模や機能について誤解を招く可能性がある場合、広告規制に抵触する恐れがあります。
3.地域の慣行
医療機関の名称は地域の慣行や患者の理解に基づいて選ばれることが多いため、20床以上の施設が「医院」や「クリニック」を名乗ることは一般的ではありません。
➡法的には明確な禁止事項はありませんが、患者の誤解を避け、適切な情報提供を行う観点から、20床以上の医療機関は「病院」という名称を使用することが望ましいと考えられます。
まとめ
・医療法上は「病院」(20床以上)と「診療所」(19床以下)に分類される。
・「クリニック」や「医院」は法的定義がなく、一般的な呼称として使用されている。
・「病院」は20床以上の入院設備が必要だが、「診療所」、「クリニック」、「医院」には厳密な基準がない。
・20床以上の医療機関が「医院」や「クリニック」を名乗ることは法的に禁止されていないが、患者の誤解を避けるため推奨されない。